一人いればいい

小学一年生、六歳半の息子 倫太郎が近頃夢中なのはトカゲ。
近所の友達とあちこち駆け回って捕獲している。
大きさや色でレア度のランクがあるらしく、レインボーで大きいのを捕まえたらヒーローになれるようだ。
 
 
 
彼らが夢中で探しているのをぼんやり眺めていたら、何やら息子がむずかっている。
それもそうだ。
ただ一人の一年生なのだから、スピードもテクニックもまだまだ上級生に及ばない。
 
 
「オレにちょーだい!」
 
 
涙目でうったえている。
そんな一年生を、なんだよまったくさ〜と困り顔の上級生たち。
そんな中、一人の上級生が
 
 
「お前らそう言うのよせよ。年下なんだからさ。
俺たちが獲ってやろうぜ!」
 
 
と言ってくれた。
彼はきっとリーダー的存在なのだろう。
 
 
「よし!じゃあ、次獲ったのは倫太郎にあげよう!」
「オーッ!」
 
 
なんて急展開するから、子供って面白い。
 
 
その言葉通り、次に獲ったのを息子はもらった。
そのあと、みんなで何匹か獲ったのだが、一人だけ一匹も獲れなかったコがいた。
 
 
「倫太郎の一匹、ちょーだい!」
 
 
彼が言い出した。
息子は、私が獲ってあげた大物をすでに持っていたので、さっきもらったのを合わせると二匹が虫カゴに入っていた。
でも、息子はそれをあげたがらなかった。
 
 
「これ、オレのだもん!」
 
 
「ちょーだい!」
 
 
「やだ!」
 
 
二人とも、もう泣きそうだ。
それを見守る上級生たち。
 
 
すると、息子はキッと口を結び、虫カゴに手を突っ込み、さっき上級生たちからもらったトカゲを差し出した。
 
 
「大きいのはお父さんが獲ったのだからダメだからね」
 
 
「ありがとう!」
 
 
子供っていいな……と思った。
 
 
 
いじめの問題。
うちの息子に「採ってあげようぜ!」と声をあげてくれた上級生。
ああいうコが一人でもいれば、いいのだ。
一人だ、たった一人いればいいのだ。
 
 
 
それで救われる、思い、気持ち、尊厳、命がある。
そう思う。
 
 
 

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