その気持ちを忘れるな

春の陽気のせいだろう。

ふと今朝、かつてまだ自分が髪をお客さんとしてカットしてもらっていたときのことを思い出したんだった。

そのときの自分は髪を切りに行くことを楽しみにしていた。

どんな話をしてくれるかな……
どんな音楽を聴かせてくれるかな……
どんな空気が流れているかな……

とてもワクワクしていたのを覚えている。

あのときのあの感じ。
あれが今朝、お客さんのシャンプーをしながら、グワングワンと蘇って来たんだった。

僕は思った。

あのとき、僕が感じていたあのワクワクを、今来てくれているお客さんが感じてくれてたら嬉しいな。
多少自惚れの強い痛いオッサンなので、うむ!きっと感じてくれているに違いないぜ!と思い込むことにした。

プロにならなきゃなと思いつつも、あのときの自分がまだお客さんだったときの気持ちを忘れてはいけないな。
気を抜くと、すぐに忘れがちだからね。

誰かがこう言っていた。

“自分が笑うために一生懸命やるのはアマチュア。
プロは、人に喜んでもらう、笑ってもらうために努力する……”

ふむなるほど。
でも、僕は多少自惚れの強い欲張りで厚顔無恥で図々しい軽薄な床屋のオッサンだから、自分が笑うためにも一生懸命やるし、人に喜んでもらう、笑ってもらうためにも努力しようと思う。

写真は三十年近く前、僕がまだ何者でもなかった頃のもの。
これを見て出てくる一言は「自由だな〜」って感じか。
イイね、自由。

それでは股旅。

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